渋谷セブンスフロアーのライブ以来、2ヵ月半のごぶさたでした。ライブのたびに1曲づつ、楽曲解説をしていこうと思っていたのですが、諸般の事情により、前回の公演におきましては、誠に残念ながら割愛せざるを得ず、関係各方面に多大なご迷惑をおかけしたことを心よりおわび申し上げます。(まにあわなかったのでごめんなさいということだ。おとなになると、いろいろたいへんなことがあるということだ。わかったか。)
というわけで、今日は〈港のシュトックハウゼン〉の解説をしよう。この曲のタイトルは、以前、ライブでも話したことがあるように、アメリカのミニマル音楽の大御所、フィリップ・グラスの〈海辺のアインシュタイン〉のパロディーである。(邦題は「浜辺のアインシュタイン」かもしれない。)と言っても別に深い意味があるわけではない。両者とも繰り返しがある曲だという以外、共通点はない(と思う)。グラスの〈海辺のアインシュタイン〉は英語で、〈Einstein on the beach〉、〈港のシュトックハウゼン〉は〈Stockhausen on the bay〉。単に語感がにているだけのことで、あえていうならば、〈さかきばらいくえ〉に対する〈かしわばらよしえ〉の様な存在である。
さて、グラスの〈海辺のアインシュタイン〉という作品は、上演に3〜4時間はかかるという長大なオペラで、相対性理論のアインシュタインの扮装をしたバイオリニストが延々と単調なフレーズを繰り返し弾き続け、合唱隊が、ワン・ツー・スリー・フォー・・・・と数をかぞえ続けるという、ミニマル界の重鎮、グラス節全開の横綱相撲的内容の作品である。(だいたい、ミニマルミュージックというやつは、規模が大きく、長ければ長いほど〈すごい〉のであって、最終的には物量戦である。ところで、最近のグラスは、70年代のデビッド・ボウイのベルリン3部作を題材に、交響曲を作ったりしている。現代音楽の作曲家としてはかなり変わっているというか、彼の意図は、はかりしれない。)
それにひきかえ、〈港のシュトックハウゼン〉はゲストのロケット・マツさんをいれても4人編成の、演奏時間も5分たらずの小曲である。しかし日本には和歌がある。俳諧がある。わび・さびがある。私の気持ちを歌に詠もう。来年の歌会始めの御題は現代音楽だーっ!(うそ)
ところで、シュトックハウゼンという人は、現代音楽界の大御所で、私の個人的なイメージとしては、電子音楽(電気グルーヴからグルーヴと調性を完璧に取り去ったもの)の印象が強いが、実際には民族音楽調あり、神秘主義ありの、幅広い作風の作曲家のようである。すこしまえ(97.6.2)偶然、車に乗ってる時ラジオで聞いて、1928年生まれと言っていたので、ついでに書いておこう。(やってた曲は、星座の12宮にそれぞれメロディーをつけたもので、女性のアコーディオンひきと、クラリネット、バスクラリネットという編成だった。)
アインシュタインは、物理学者アインシュタインという意味のほかに、ドイツ語の、Ein=ひとつの、Stein=石 という意味もある。したがって、〈Einstein on the beach〉は、〈海辺に落ちているひとつの石ころ〉という意味にもとれる。
そして、シュトックハウゼンは、現代音楽作曲家シュトックハウゼンという意味のほかに、ドイツ語のStock=在庫、Hausen=家 で、倉庫という意味もある。したがって、〈Stockhausen on the bay〉は、〈港の倉庫〉という意味もある。
そんなこともあって、〈港のシュトックハウゼン〉全編に登場するテーマ(最初は16小節、だんだん短く分断されて行き、最後は1小節になってあらわれる。)には、芝浦あたりの倉庫街を行き交う大型トラックのイメージがあり、私の家庭内では「ダンプのがらっぱちのテーマ」とよばれている。これは私の息子(長男)に読み聞かせていた絵本の登場人物(車両)から借用したものである。
「ダンプのがらっぱち」という絵本は、どうにもすくいのない話で、〈こんごう〉という名前の、きれいでまじめなダンプトラックが、たちの悪い仲間のトラックに挑発されて、転落の人生(車生)をあゆみ、〈ダンプのがらっぱち〉と呼ばれるいっぱしのワルになるのだが、しまいには過積載でつぶれてしまうという内容のものである。その後はない。ただ、つぶれてしまう。それでおしまい。という話である。なにかアメリカンニューシネマ(古い)を思わせるような破滅型の絵本というのは少しめずらしい。
というわけで、いろいろなイメージが重層している〈港のシュトックハウゼン〉の解説はどうにも散漫になってしまう。言葉による解説の限界をひしひしと感じている今の私だが、ばらりと並べられたイメージをわずか5分ほどであなたの脳にとどけてしまう、音楽って怖いものだね。
最後に私なりにキーワードをならべて見よう。この文章では書けなかった言葉も入っています。みなさんはこれを切り抜いて、自分なりに並べ直して聞いて見るのも良いでしょう。
(ライブの時に配付されたものではここにキーワードを並べたイメージが入るのですが、ここでは省略させていただきます。)
1997/8/21 三木黄太