「天孫降臨(てんそんこうりん)」について

 

 約ひと月のご無沙汰でした。前回のコツコツライブでは、〈チャウシェスクの逆襲〉の楽曲解説をしましたが、今回は御約束の〈天孫降臨〉です。

 

 天孫降臨とは何か?御存じの方も多いと思いますが、これは「古事記」、「日本書紀」に記されている日本の神話のなかで、アマツヒコヒコホノニニギノミコトが、高天原(天上界)からトヨアシハラノミズホノクニ(現世)に降りてくるという話のことです。このアマツヒコヒコホノニニギノミコトというのは、最初の神様であるイザナギノミコトのひ孫で、アマテラスの孫、海幸彦・山幸彦(兄に借りた釣針をなくして竜宮城へ行ったというお話で有名)の父親で、カムヤマトイワレヒコ(神武天皇、初代の天皇)の曾祖父である。今、手元に「古事記」しかないので、詳しくは書けないが、「日本書記」には本文のほかに何通りかの異伝が記されている。それらにはお供としてついて行った神々や、持って行った宝物(剣とか鏡とかのマジックアイテム)について、何通りかの異説が書かれている。そして、「古事記」を始めとして、それらのほとんどが、多くの神々をしたがえて、堂々とぶ厚い雲をかきわけながら天界からくだってくる様子を描写しているのだが、どういうわけか、ひとつだけ、雨の降る中、ひとりかあるいは小人数で、みのかさをつけてひっそりと降りてくる姿を記したものがある。

 

 余談になるが、このニニギノミコトはその後、コノハナサクヤヒメという美人と知り合い、その姉イワナガヒメもろとも付き合ってやろうと思ったら、これがまた大変なブスで、(古事記には甚凶醜─はなはだしく、おそろしく、みにくい─と書いてある。人のことを言うのにこれほどひどい言い方があろうか。)やっぱり妹だけにしといたら、これがまたワナで、それ以来、天皇の寿命は短くなってしまったという話がある。

 

 余談に余談を重ねるようだが、美人の妹というのもストーカーなみにテンションの高い人で、一晩だけの関係で妊娠したということをパートナーに疑われ、その疑いを晴らすために、臨月になって、でかい家を建て、中にはいると、出入り口をすべてふさぎ、「これで無事に産まれたらあなたの子よ。」といって火を放ってしまう。そんなことをしたら普通、死んじゃうでしょうと思うが、これまたふしぎなことに無事に産まれてしまう。しかも3人も。男にとってはけっこうビビるシチュエーションだと思う。

 

 というわけで、そろそろ楽曲の解説に進もう。この曲は、どちらかというと元気な曲の多い我々コツコツのレパートリーの中では、わりとゆったりしたテンポで、通常のロックバンドでいえばスローバラードナンバーともいえる位置づけになる。初演は、チェロ三人+リコーダー3人+チューバ(栗コーダーカルテットの皆さんです。CD「蛙のガリアルド」は素晴しい出来のアルバムです。)で、最近のライブでは、栗コーダーの部分をロケットマツさんにピアノで担当してもらっています。これがまた予想外の効果で、まるでメシアン(フランスの作曲家1992年に亡くなった。私の記憶では、同じ日くらいに、画家のフランシ・スベーコンも亡くなったようにおもう。〜ほとんどカン〜)みたいな雰囲気になりました。そうしてみると初演の練習の時、栗原さんが「こんなメシアンみたいな曲を一度やってみたかった」とおっしゃっていたのを思いだし、その言葉、当時の私には、変な曲を演奏してもらうので恐縮しまくっていた私を慰めてくれている言葉として受けとめていたのだが、作曲者の私が気付かずにいた曲の一側面を正確に言い当てていたのだと思うと〈さすが栗原さん!〉と感慨ひとしおである。それと同時に、直観的にそのテイストをピアノのタッチで表現してしまったロケットマツさんもスゴイ!と言わざるを得ない。

 さて、この曲の基本モチーフは、一番最初に坂本が弾き始める、2分音符の(ド シ シ♭ ラ♭ ソ ファ ミ レ )という下降音形である。これが天界から天くだってくる神々を表わしている。これに、三木が同じことを1小節半遅れてなぞるように弾く(これをカノンという)。さらに佐藤が、全音符(2倍の長さ)で同じことを弾く(これを拡大カノンという)。実際には、追いかけの効果を強調するために、佐藤は1順後に弾き始める。そんなこんなをひっくるめて対位法的展開といっておこう。これで、8小節がひとかたまりの基本構造が出来た。(下図参照)

    

 さて、これまでに三つの音が出てきたので、当然、ここに和音ができる。とはいっても、機械的に並べられた音同士なのでひどいものである。(2小節目の頭などは、シ♭ レ シ だし、3小節目の頭も、ソ シ シ♭というひどい和音である。)これをどうにかしないとスローバラードナンバーにならない・・・てんで、なかば強引にコードをわりふったのが表の一番下のコードネームである。

 曲の展開の中で、坂本・三木・佐藤の弾く基本構造を休みにしてコード感を前面にだし、新しいフレーズを付け加えた部分がある。この部分は比較的聞きやすい場所だが、ひき続いて、佐藤の基本モチーフが現われたりする。また、すべての要素が出そろって演奏される部分もある。これらのパーツは、@基本モチーフ A基本構造 B外枠(コード) C外枠の飾り(新しくつけたフレーズ)といった要素を、組み合わせたり、くらべたりすることで、成り立っている。 

 さて、日本神話〈天孫降臨〉について、こんなふうに考えてみる。@Aの基本モチーフないし構造は、「天皇の先祖が天界から降りてくる」で、B外枠は、中国の書物の書き方をまねた「記述のしかた」で、C外枠の飾りは、「降臨する様子、お供する神々の数や、名前(に象徴される役割)、マジックアイテムの数や種類」という具合だ。

 作曲するときに、いちばん自由度の高いのは、C外枠の飾り(新しくつけたフレーズ)だが(ほかの作業は、ほとんど機械的におこなわれる)、神話の記述においても、〈カット〉や、〈書きくわえ〉がもっともしやすいのは、C外枠の飾りの部分であろう。それが、具体的にあらわれているのが「日本書紀」に見られる数々の異説ではないか、などと考えながらこのスローバラードナンバーを君に贈ろう!(with my ・)

1997.3.30 三木黄太(家具もよろしく)

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